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昨年暮れに日本テレビで放映された「14歳の母」が話題になっている。主演の志田未来さん(13歳)が演じる中学2年生の“未希ちゃん”が15歳の恋人との間で妊娠してしまうという衝撃的なドラマ。このようなドラマの影響力の大きさは計り知れない。たった一度であっても、セックスが行われれば妊娠や性感染症を引き受けるという教育はおざなりでありながら、結果として起こった妊娠に対しては、突如として「愛」だの「いのちの大切さ」だのと強調するメディア。特に心配なのは、人工妊娠中絶は悪、産むことが美徳であるかのような風潮を生みかねないことである。わが国では15歳未満の出産例が1年間42件(05年)と報告されているが、その陰で308件(05年度)の人工妊娠中絶が行われていることを思うと、過去に中絶を余儀なくされた女性たちの心を傷つけてしまわないかも心配だ。
今回のドラマもそうであったが、いつも釈然としないのは、妊娠に至るセックスであれば間違いなく男女間の営みがあったはずなのに男性の姿が見えてこないことだ。特に、妊娠は男性には起こりえない現象であるにもかかわらず、避妊をあくまでも男性任せにしているわが国の現状を鑑みると、厳然と存在する生物学的性差に対する認識の甘さを嘆かずにはおれない。
本稿では、最近行われた調査結果などをもとに、思春期の性意識、性行動の性差に迫ることとしよう。
性意識には顕著な性差が認められる。東京都内の性教育研究グループが行った調査で1)中学生に対して「現在、特定の異性と二人だけのつきあいをしているか」を尋ねると、「ない」と回答した男性は86.1%、女性は80.2%であったが、「付き合っている相手をどう思っているか」については、「友だち」が男性23.4%、女性16.1%、「恋人」が男性53.3%、女性65.7%と認識には大きなずれがある。「今までに、性的接触(性交)をしたいことがあったか」には、1年、2年、3年の順に男性対女性比が2.4倍、2.3倍、1.6倍と、女性に比べて男性の方が明らかに欲求度が高い。
その一方で、実際の性交経験に目を向けると、女子高生は1年から3年の順に14.6%、26.4%、44.3%、男子高生は1年から3年の順に12.3%、23.5%、35.7%であった。質問は中学生にも向けられ、中2、中3女子ではやや増加傾向にあったが、他の学年はすべて減少していた。中1から高3すべての学年で女子の経験率が男子を上回っていた(図1)。
図1. 初交経験率の年次推移(2005年)
(東京都幼稚園・小・中・高・心障性教育研究会:2005年調査 児童・生徒の性、学校図書、東京、2005)

性的欲求は男性の方が強いのになぜ性交経験率が男性を上回るかについて、筆者は、思春期世代の女性の性交相手が必ずしも同世代とは限らないことが関係しているのではないかと推察している。高校生に対する調査1)ではあるが、「特定の異性と交際している」男女の「交際している相手の身分」を尋ねると、いずれの学年も、女性の交際相手が、男性と比べて自分よりも年長であることから、女性の自発的な行動というよりも相手から求められて応じるという受動的な行為となっているのではないだろうか(表1)。
| 男性 | 女性 | |||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1年生 | 2年生 | 3年生 | 合計 | 1年生 | 2年生 | 3年生 | 合計 | |
| 中学生以下 | 9.2 | 11.6 | 8.2 | 9.8 | 4.1 | 4.3 | 2.3 | 3.6 |
| 高校生 | 85.3 | 81.0 | 77.6 | 81.4 | 83.4 | 73.8 | 50.4 | 70.0 |
| 学生・浪人 | - | 4.1 | 5.1 | 3.0 | 6.2 | 8.5 | 22.9 | 12.0 |
| 社会人 | 5.5 | 3.3 | 9.2 | 5.8 | 6.2 | 13.4 | 24.4 | 14.3 |
妊娠の可能性があるのは生殖可能年齢にある女性だけであって、男性には絶対に起こり得ないにもかかわらず、わが国には妊娠が自分の問題であることを認識している女性が殊の外少ない。
厚生労働科学研究班と日本家族計画協会が共同で行った「第2回男女の生活と意識に関する調査」2)(2004)によると、「初交時避妊を行った」との回答は、22歳に初交を経験した女性では8割を超えるものの、16歳から19歳では6割程度、それ以下では更に低くなっている。特に、年少で性交を経験していながら避妊を実行できないだけでなく、避妊を男性に依存している姿が目立つ。
日本産婦人科医会が2002年11月に実施した「10代の人工妊娠中絶についてのアンケート調査」でも3)、「今回妊娠したとき避妊はしていたか」(複数回答)の問いに、24.4%が腟外射精を、19.0%がコンドームと回答し、自分では避妊したいたと回答する女性が少なくなかった。しかし、この結果から避妊を正確に行うことができなかった彼らを責めることはできない。彼らは、親や兄姉、教師、いや日本人の採っている避妊法を真似ているに過ぎないからだ。
性感染症予防としてのコンドーム使用の必要性を否定するわけではないが、妊娠が女性にのみ起こる現象である以上、避妊を男性任せにしていては、妊娠を確実に回避することは難しい。このような男性依存の避妊行動を変えられない限り、妊娠は当然の結果ではないだろうか。しかも未婚の母や婚外子に対して厳しい国であることから、人工妊娠中絶を選択せざるを得ない。
2005年度の衛生行政報告例によれば、人工妊娠中絶実施総数は289,127件で史上初めて30万件を割る一方、20歳未満は30,119件となり前年比4,626件減少している。15歳未満でも308件の中絶が行われていることが判明している。1995年以降直線的に増加していた15歳から19歳の女子人口千対の人工妊娠中絶実施率は、01年(13.0)をピークに、02年度12.8、03年度11.9、04年度10.5、05年度9.4とここ4年ほど減少傾向を示しているが、依然として高率であることに変わりはない。(図2)
ちなみに、わが国の女性では16.3%が人工妊娠中絶を経験し、そのうちの反復中絶が29.4%にも及んでいる2)。「相手が中絶をしたことがある」との回答が男性の9.1%に過ぎないことを考慮すると、男性に知らせることなく中絶手術を受けている女性が相当数いることがわかる。
2005年世界人口白書では、“AIDS has a Woman’s Face”と警告している。事実、世界のHIV感染者4000万人のうちほぼ半数が女性であるだけでなく、サハラ以南のアフリカ諸国でのHIV感染者の57%が女性で占められ、その大半が若い世代であると報告している。
わが国で実施された性器クラミジア感染症の疫学調査からも4)、若い世代での罹患率の高いことが指摘されている(図3)。ピークは20~24歳にあって、その男女比は女性の方が2.55倍多いことも注目に値する。しかも、女性の場合、重症化することが少なくない。
クラミジア感染の結果として、女性では子宮頸管炎や骨盤内感染症などを併発し、時には卵管炎から不妊症になったり、肝周囲膿瘍が発見されることさえある。また、HIVに感染する危険性が3倍から4倍に増大する。妊婦が感染すると、生まれた子どもの封入体結膜炎や肺炎などが問題になることもある。クラミジアや淋菌が、最近では性器からだけでなく咽頭粘膜からも検出されるようになった。オーラルセックス(口腔性交)の結果だ。性行動の多様化は、STDの感染経路にも大きく影響を及ぼしている。性器から性器、性器から口、口から口、口から性器という具合だ。それもこれも、フェラチオと腟外射精などが主流であるアダルトビデオからセックスを学ぶ現代若者像を反映しているとは言えないだろうか。
STDは女性だけが引き受けるわけではないが、なぜ男性に比べて女性がSTDに罹患し、さらに重症化し易いのか、筆者の見解を以下に列挙した。
①女性と男性の性器の構造上の違い。特に腟粘膜の総面積が広い。
②女性は精液中の病原体が滞留しやすい性器の構造になっている。
③男性に比べて女性のSTDの潜伏期が長く、症状が発現しにくい。
④女性では、排卵期や月経中などに上行性の感染が起こり易く、外陰部から腟、子宮、 卵管、骨盤腔へと感染が波及する危険性が高い。
手元に、「ライフサイクルの変化が現代女性にもたらした健康リスク」という資料がある。これによれば、月経のある女性の約30%に月経困難症、3~5%に月経前症候群(PMS)が、生殖年齢女性の約10%に子宮内膜症、約20~50%に子宮筋腫、卵巣癌は1万人あたり4.6人と報告されている5)。このように、女性性を有するために、妊娠だけでなく、男性には起こり得ないリスクに常にさらされていることになる。とりわけ、排卵・月経に伴う健康リスクについては、女性を診る側にある者として看過することはできない。
月経に関する大規模な調査を実施したMSG研究会の報告によれば6)、月経前後に「腹痛、腰痛、乳房がはる、全身のだるさ、腹がはっているような感じ、頭痛」など身体症状を訴える女性は6~9割に達し、「無気力、いらいら、怒りっぽい、憂うつ、信じやすい」など気分の変化が4~8割に認められている。月経を前向きにとらえることができるに越したことはないが、大半の女性が月経のたびに相当な苦痛を強いられていることは明らかである。卵胞の破裂、排卵、修復が繰り返されることで卵巣に相当な負担がかかっていることは想像に難くない。しかも、現代のように少産化が進行すると、言い方は悪いが、無意味な排卵が繰り返されることになり、結果として卵巣癌の発生率を高める結果となっている。
月経と病気との関係について詳細に調査した松田は7)、子宮内膜症など月経に直接関与した問題だけでなく、喘息、リウマチ性関節炎、てんかん、過敏性腸症候群。偏頭痛などは月経時に悪化すると報告している。月経に伴うトラブルを回避するために、出産回数を増やせと警告を発するつもりはない。産むか産まないかは個人が決めることであるし、産みたくても産めない不妊女性の存在もあるからだ。
しかし、朗報がないわけではない。さまざまな思惑の中で「産むこと」を拒否している現代女性が引き受けるリスクを予防・改善するものとして、排卵を抑止する、月経血量を減らす、月経痛を和らげる、月経周期を整えるなどを可能にした経口避妊薬(ピル)の使用が女性のQOLを高めることは広く知られている。
指導者や身近なおとなはモラルやルールを作ることによって思春期の子ども達を縛ろうとするが、性衝動をはじめとした、からだや心の動きはコンピューターのように指示通りには動かないものである。他人が強制するのではなく、子どもたち自身が自尊感情を高め、性的自己決定権を行使していくことができなければ、子ども達の真の成長は望めないだけでなく、性の管理者として、自分の体を自分で守り通すことができない。そのために、私たちおとながなすべきことは、子ども達が今、何を求めているのかを知り、彼らが自己決定するのに必要な情報を的確に提供していくことである。性交開始時期を可能な限り先延ばしして欲しいと願う一方、激しい性欲に襲われ自己を失いかねない世代を生きている彼らには、緊急避妊法*の存在8)を知らせておくとともに、願わくば女性が主体的に取り組める避妊法としてのピルとSTD予防には男性が責任をもってコンドームを装着すること、すなわちDual Protection against Unwanted Pregnancy and Sexually Transmitted Diseases(望まない妊娠と性感染症の二重防御)を心掛けるようメッセージを送り続けていきたいものだ。
*日本家族計画協会が運営している『緊急避妊ホットライン』03-3235-2638(月曜から金曜、午前10時から午後4時)では、緊急避妊ピルを処方してくれる全国約1,500施設を無料で紹介しています。