トップ > 放射性ヨウ素の人体への影響と防御
甲状腺は口から入ったヨウ素を積極的に取り込んで、甲状腺ホルモンを作っています。現在、福島原子力発電所の事故により主に放出されている放射性ヨウ素131は、体に入ると甲状腺に取り込まれます。放射能による被ばくは、細胞分裂が活発な細胞ほど影響を受けます。従って、甲状腺の細胞分裂も年齢が低いほど活発です。1986年のチェルノブイリの原発事故後に、小児に甲状腺がんの発症が多かったのはこのためです。
しかし多かったといってもその頻度はかなり低く、またこうした影響を受けるかどうかは被ばくの量によります。東京でも、水道水に含まれる程度の量を乳児が継続して摂取するとこのような影響を受ける可能性があると報道されました。しかし日本では、かなり厳しい基準で判断されていますので、少しでも摂取すると危険であるとか、だれもが影響をうけるなどという、放射線に対する過剰、あるいは無用な心配はするべきではありません。細胞分裂が活発でなくなった成人、ことに40歳以上の人は、放射線被ばくによって甲状腺がん発生することはありません。なお放射性ヨウ素131の量は日によって変わりますから、ご自分で確かめてください。
放射性ヨウ素131の放射能は8日間で半減するというペースで次第に減っていきます。
補足:
がんを放射線で治療するということを聞いたことがありませんか?
がん細胞は細胞分裂が盛んなので、放射線の影響を受けやすく、増殖が抑えられるという効果を利用したものです。放射性ヨウ素131は、甲状腺がんの手術後に残っているがんや、転移したがんを治療するのに使うことがあります。
またがんとは違いますが、バセドウ病の甲状腺も放射性ヨウ素131で甲状腺細胞が減りますので、治療に使うことがあります。どちらの場合も放射性ヨウ素131の入ったカプセルを服用します。
治療に使う量は、がんを発生させる可能性のある量より大量ですが、このような使い方で甲状腺がんを起すことはありません。しかし、治療したあと一定期間他の人に影響しないようにする生活上の注意を守れば、その後は全く問題ありません。
甲状腺はヨウ素を積極的に取り込むので、放射能のない普通のヨウ素を大量に摂ると、放射性ヨウ素が甲状腺に入るのを防いでくれます。
効果のあるヨウ素の量
a. 新生児:12.5mg
b. 生後1カ月~3歳未満:25mg
c. 3歳~13歳:38mg.
d. 13歳~40歳未満および妊婦:76mg
e. 40歳以上:妊婦は76mg、他は必要なし
ヨウ素の摂り方
1錠にヨウ素38mgを含む小さな錠剤がありますので、3歳以上の場合にはこれが使えます。錠剤が飲みにくい場合は粉末になったもの、あるいは調剤して作る液体で摂ることができます。ただし、後ほど述べるように、これらは普段はバセドウ病の治療に使うことがあるもので、医師の処方箋がないと手に入りません。また現在これらのヨウ素剤は、必要になる可能性が考えられる福島の人たちに配るために、現在手に入りにくくなっています。
なおヨウ素の摂取は、大抵の場合は1日1回の服用で十分です。2日目も服用を考慮しなければならない場合が生じたら避難を優先する必要がありますが、それが不可能な場合はさらに1日1回摂取します。
ヨウ素剤が入手できない場合
ヨウ素剤が手に入らない場合は、次のような方法があります。ヨウ素を多く含むのは海藻で、中でも「昆布」は他の海藻類より格段にヨウ素を多く含み、5グラムで10-20mg摂取できます。北の方で採れる昆布の方がその他の地域の昆布より濃度が高いと言われています。昆布はそのままでは食べにくいし、吸収するまでに時間がかかるので、水に浸けて昆布水として飲むのがよいでしょう。2分も浸けると75~80%ぐらいのヨウ素が溶け、まもなくほとんどが溶け出しますから、10分以上浸けても意味はありません。またお湯に浸けるとさらに早く出てきます。
昆布以外の海藻は、ヨウ素の濃度がかなり低いので実際的ではありません。ちなみに昆布の次はひじきですが、昆布と同じ量を食べた場合、ヨウ素は昆布の約10分の1程度しか摂れません。海苔では約100分の1です。
消毒薬として使うイソジンや、うがい薬のイソジンガーグルにもヨウ素がかなり入っています。イソジンガーグル1mlのヨウ素の量は7mgです。しかしこれらには体に害のあるものも入っていますから、放射性ヨウ素を防ぐことができるほど服用すると危険です。
服用するタイミング
被ばく24時間前に服用すると70%、12時間前なら90%、同時なら100%効果があります。被ばく後に服用した場合は、1時間後が85%、3時間後が50%と急激に効果が減少し、6時間を過ぎるとほとんど効果がありません。このことから、いつ摂取したら効果的かおわかりでしょう。摂取すべきタイミングについては、これに関する情報に注意していてください。
ヨウ素の害
現時点で問題のない地域でも、予防のために昆布水を摂ることが勧められるかどうかについてですが、大量のヨウ素を摂り続けると甲状腺機能低下症になって、甲状腺ホルモンの不足を起こす場合があることを念頭におく必要があります。ことに新生児や乳児は、大量のヨードに敏感です。3歳までは脳の発達に甲状腺ホルモンが重要ですから注意しなければなりません。そのほかに影響を受けることがあるのは橋本病患者さんで、甲状腺が正常な人ではまれです。
この甲状腺機能低下症は、ヨウ素を中止して1~2週間もすれば回復します。3歳を超えていれば、このような一時的なものは健康上問題ありません。
補足:
バセドウ病の患者さんは、ヨウ素を大量服用すると甲状腺ホルモンの濃度が減って治療が必要になることがあります。ただしこの効果は長く続かないことが多いので、一時的に使う場合がほとんどです。
2011年3月28日
財団法人東京都予防医学協会
内分泌科部長 百渓尚子