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甲状腺外来

甲状腺の病気 シリーズ5【バセドウ病と妊娠】

表紙

バセドウ病と妊娠
 人から聞いたり新聞や本に書かれたりしている情報には、間違ったもの、根拠のないものがあります。このパンフレットをよく読んで正しい知識を持ってください。
 なお、これと違った情報に出会ったら、ぜひお知らせください。
挿し絵

妊娠まで
血液中の甲状腺ホルモンの濃度がまだ高いあいだは、一般の妊婦さんより流産が多いので、妊娠をひかえていた方が安全です。薬を飲まないで済んでいる場合はもちろん、薬を飲んで病状が安定している場合は、健康な人と変わりなく安全に妊娠・出産できます。
出産まで
バセドウ症があると出産直後に症状が急に強くなり、治療が難しくなると言われることがあります。これは「甲状腺クリーゼ」と言われる病状ですが、めったにおこるものではなく、治療が不十分で甲状腺ホルモンが著しく過剰のまま出産した場合に限られます。症状が落ち着いている限り、問題がおこることはありません。妊娠が進むとバセドウ病は自然に軽くなることが多く、薬を中止できるようになる場合もあります。
通院できなくなったとき
万一、流・早産、妊娠中毒症、その他で受診できなくなった場合は、甲状腺の状態と関係がないかどうか調べる必要がありますので、産科の先生から内科の担当医へご連絡くださるようにお願いしてください。
出産する施設
出産するところは総合病院である必要はありません。産科の先生にご理解していただくようにすることができます。ただ、治療開始が遅れて症状の落ちつかない場合や、新生児期に小児科の先生のご協力が必要な場合は、出産する病院を選ぶ必要があります。

赤ちゃんへの影響
お母さんに必要な治療は、お腹の赤ちゃんにも必要だと考えてください。

生まれてすぐわかる形態異常(奇形)の頻度は、一般の人で1000人に8~10人です。薬は奇形をおこすと考えられがちですが、バセドウ病の薬(抗甲状腺薬)を飲んでいてもこの頻度と同じです。形態異常の児が生まれた場合にそれを薬のせいにするわけにはいきません。ただしメルカゾールは、妊娠初期に服用すると、生まれた子どもに一般にあまり見られない特有の形態異常が見られる場合があることがわかってきました。そのため服用を避けるように勧告されています。そこで、妊娠前にできるだけチウラジールかプロパジールに変更する必要があります。

バセドウ病のお母さんに甲状腺ホルモンの過剰をおこしている物質は胎盤を通過するので、お腹の赤ちゃんの甲状腺にも影響することがありますが、これは遺伝ではなく、後に残ることはありません。また、お母さんが薬を飲めば、自然に赤ちゃんにも効きます。量が適当である限り、赤ちゃんの利益になっても、害にはなりません。抗甲状腺薬には2種類ありますが、赤ちゃんの甲状腺への効果はどちらも同じです。

生まれたあとはお母さんから薬が来なくなりますので、赤ちゃんの甲状腺ホルモン濃度が高くなり、一時的に治療が必要になることがあります。これは専門家であれば予測できますので、事前に産科と小児科が連絡をとって対処します。そうすれば、その後に影響を残すものではありません。

授乳について
お母さんの症状がよほどひどくない限り、授乳が全くできない場合はごくまれです。ただ、服用する量によってはある程度授乳を制限しなければならない場合があります。その場合は服用後、一定期間はミルクにし、それを過ぎたら母乳にします。
出産後の1年は重要
産後は再発したり悪化したりすることが少なくありません。その中には甲状腺に貯えられていたホルモンが一時的に血中にもれて出るものがあります(無痛性甲状腺炎)。これをバセドウ病の悪化と間違えてしまうことがよくありますが、自然に治まる性質のもので、バセドウ病の薬はかえって害になります。このように、産後は慎重な診断が必要な時期です。

産後に異常がおこらなければ、バセドウ病が十分治っていることもわかるので、産後は大切な意味があります。ことに産後6カ月までが重要です。異常があっても自覚症状がないこともありますので、指示に従って通院してください。通院間隔は患者さんによってちがいますが、1~3カ月に1回ほどです。

手術や放射性ヨード(アイソトープ)治療後の妊娠について
アイソトーブ治療をした場合は6ヵ月は妊娠を避けてください。なお手術した場合も、しばらくは甲状腺機能に異常があって、流産しやすく、また甲状腺を刺激する物質が胎児の甲状腺に影響することがあります。なお最近は、再発がないように甲状腺の組織を十分減らすように治療することが多くなりました。この場合は、甲状腺機能低下症になりますが、甲状腺ホルモン(チラーヂンS)を服用して、安定した状態で妊娠することができます。甲状腺を刺激する物質は、手術の方が早く減りますので、近い将来妊娠を計画している場合は、アイソトープ治療より手術が勧められます。ただし、人によって違いますので、医師におたずねください。
その他の場合:手術やアイソトープ治療で治ったあとも長い間、甲状腺を刺激する物質が血液中に高い濃度で残っている場合があります。めったにないことですが、妊娠してもこの濃度が高いままですと、赤ちゃんの甲状腺に影響することがあります。そのため、胎児や新生児の治療が必要になりますので、問題ないと思っても妊娠中だけでなく妊娠前に一度は検査してください。
里帰り出産について
産後は、昔は安静が必要だといわれていましたが、これは間違いです。早くからからだを動かさないとかえって産後の回復を遅らせます。里帰りしない場合に比べて、里帰り出産は産科的なトラブルのおこる率が高く、産科の先生の間で問題になっています。出産まで検査や治療が必要な場合、ことに専門知識を必要とする医療が必要な場合は、遠方への移動による負担のほかに、対処が適切でなくなるという問題も生じます。お腹の赤ちゃんを最優先にしてください。

中絶について
バセドウ病であるからという理由で、中絶が必要になることはまずありません。甲状腺ホルモンが過剰な間に中絶すると急激な悪化をまねくことがありますので、検査で安全かどうかを確かめる必要があります。
不妊、生理不順について
バセドウ病が直接不妊の原因となることはまずありません。甲状腺ホルモンの過剰が続いていると、生理の間隔が延びたり量が少なくなったりすることがあります。
遺伝について
バセドウ病は遺伝することがあります。どういう子どもに遺伝しやすいかは今のところ調べる方法がありませんが、年齢が低いほど発病することはまれで、小学生までは滅多ににありません。また、治療中に生まれた子どもの方が、治療をしていないときに生まれた子どもより発病する率が高いとは限りません。
挿し絵

挿し絵

百渓尚子

2011.2