脊柱側わん症検診

脊柱側わん症-現状と治療、検診の成果/礒辺啓二郎(元千葉大学教授)

本人もあまり気づかない脊柱側わん症

脊柱側わん症は、脊柱が側方に曲がるのが基本的な形です(写真)。
また、側わん変形は「ねじれ」、つまり脊椎が曲がった方向に回旋するのが特徴です(右下の図)。
そのため一方の肋骨が後ろにとびだし、前屈すると高さの左右差を生じます。

回旋の程度は一人一人異なりますが、こうしたねじれは心肺機能の低下を引き起こす恐れがあるため、治療の際には側わんだけでなく、回旋もできるだけ元に戻すようにします。

X線でみると、脊柱が曲がっていることがよくわかります。
では、こどもたち自身は、こうした脊柱の状態をどう自覚しているのでしょうか。

人によっては、「ワンピースを着た時に左右の丈が違う」「前胸部の肋骨が少しでっぱっている」などといったことに気づく場合があります。また、あとでよく話を聞いてみると、痛みを訴える場合もあるようです。
けれども、たいていのこどもは、検診によって脊柱の異常を初めて知るようです。

学校での脊柱側わん検診が開始されるまで、側わん症はある程度進行して自分や周囲が気づき、受診をし、発見されるケースが大部分を占めました。そのため、多くは中等度あるいは高度の側わん症で、手術による治療を必要とすることも多かったのです。

しかし、変形がひどくなると胸郭の動きが制限され、呼吸器機能や循環器の機能が著しく低下してしまいますから、治療自体も困難な場合が少なくありませんでした。
しかし、早期発見と装具治療によって、現在、高度側わん症で手術をするケースはたいへん少なくなっています。

腰背部痛や心肺機能低下などの原因に。精神的な影響も

脊柱側わん症は、出現・進行する発育期には本人も気がつかないほど症状もなく、痛みも少ないものです。
でも、たとえ軽度であっても、成人期以降になると、腰や背中の痛みが起こる頻度が高くなります。
人が一生のうちに腰痛を経験する率は8割と言われ、脊柱が正常な人でも大部分が腰痛を経験するものです。
腰痛は特に下部腰椎で起こりますが、その場所に側わんがあれば、そこにかかるストレスもかなり大きくなり、生活上も大きな障害になりかねません。
また、手術によって脊椎の一部を固定すると、その上下の部分にどうしてもストレスがかかります。手術などの治療によって側わん症の進行は抑えられても、その後、腰痛や背部痛に悩む人は少なくありません。

また、中等度の変形では、腰背部痛だけでなく美容上の問題につながります。精神的な問題も無視できません。さらに、高度の場合は心肺機能の低下が深刻な問題となります。
これは脊柱が変形するのに伴って胸郭が変形し、呼吸のための「ふいご運動」ができにくくなるためです。
また、気管支や細気管支が圧迫されて呼吸障害が出てくる場合もありますし、肺の機能の低下から肺炎を繰り返す場合もあります。

※脊柱の変形が進行した例

脊柱側わん症の大部分は原因不明

脊柱側わん症は、原因によって表のように分類されます。
最近は診断技術も進歩し、私が診療に携わり始めた頃は全体の約8割を占めていた原因のわからない側わん症(特発性脊柱側わん症)は次第に減ってきていますが、それでも大部分を占めているのが現状です。

特発性脊柱側わん症は女子に多くみられるもので、変形が起こる時期によって、「乳幼児型(0~3歳)」「学童期型(4~9歳)」「思春期型(10歳以上)」に分けられています。

乳幼児型は8割以上が自然に治るタイプですが、学童期型は二次性徴の時期に進む率が非常に高く、約8割は悪くなります。
そして、側わん症全体の約85%を占める思春期型は10歳以降、二次性徴が始まる時期に起こり、5割程度が悪くなるとされています。

※脊柱側わん症の分類

原因となる病気がわかっている側わん症 骨原性-先天性側わん症
神経原性側わん症
筋原性側わん症
神経線維腫による側わん症
間葉系疾患による側わん症
その他
原因のわかっていない側わん症(特発性側わん症) 乳幼児期側わん症
学童期側わん症
思春期側わん症

※気をつけたい脊柱側わん症(原因が明らかなもの)

先天性側わん症

神経原性側わん症

筋原性側わん症

神経線維腫症

間葉性側わん症

脊柱側わん症を診断し、原因を明らかにするため、現在ではさまざまな技術が用いられています。変形のカーブパターンと側わん度、脊椎の異常の有無などをみるX線写真だけでなく、必要に応じて、脊髄造影および造影後のCT検査(神経系の形態異常などをみる)、MRI検査(脊髄腫瘍や脊髄空洞症の診断が容易となる)を行い、筋電図検査や筋生検による筋組織の検査が用いられることもあります。

治療対象になるのは、25度以上の側わん

脊柱側わんの治療に際して、私たちは年齢とCobb(コブ)角をもとにおおよその方針を定めています。
治療は基本的に25度以上の側わんが対象となりますが、その方法はさまざまです。装具(下の写真)をつけてからだの外側から矯正力をはたらかせる、手術によって骨の変形を矯正する、あるいは骨を固定するなど、こどもの年齢や成長、進行性などを考えて実施します。

手術による治療技術も進歩したため、現在では骨の成長を確保しつつ、かなりの部分まで側わんの進展を抑えたり、改善したりすることが可能になりました。

しかし、手術では成長が止まった段階で最終的に骨を削って、複数の脊椎が盤状になるよう固定し、それ以上側わんが進むのを防ぐ方法をとらなければならず、脊椎の機能から考えると治療法自体が完全なものではありません。
ですから、手術はいまだ「せざるをえないからするもの」ということになります。

また、よく「25度になるまで治療はできないのか」「それまでは手をこまねいてみているしかないのか」という質問をいただきます。しかし、特発性脊柱側わん症の場合、決め手になる予防法や矯正法はないのが現状だといわざるをえません。

さらに、「整体やカイロプラクティックはどうか」という質問も受けますが、これらは整形外科とはまったくアプローチが違うものです。
側わん症に効果があるとされている体操も、私どもの研究では体操をした場合としない場合で有意差はみられていません。やはり現時点では専門医による経過観察をしっかり行い、それ以外の時には側わんを意識しないぐらいの気持ちですごすことが大切と考えています。

※装具による治療

成果をあげた検診システム

脊柱側わん症は全国的に視触診と直接X線撮影を主体に始められましたが、視触診は、私ども専門医がやってもばらつきが多いものです。
肩の高さや肩甲骨の非対称、肋骨隆起といった視触診のチェックポイントとX線撮影の結果からそれぞれの信頼度を調べた結果では、一番信頼性が高かったのは肋骨隆起で、あとのものは信頼性が低く、検査者間でばらつきが多いのが現状です。

そこで、私どもはこれまで東京都予防医学協会と協力して、モアレ撮影(1次)、さらに低線量X線撮影(2次)、直接X線撮影(3次)という検診システム(千葉方式)を進めてきました。

1次検診で使用しているモアレ撮影は、表面形状のひずみを見るために光学系で開発された技術を応用したもので、からだになんら影響を与えることなく、肋骨の隆起を縞の左右非対称から発見することができます(写真)。
客観的データとしては安定しており、有用な検査方法です。

また、2次検診で使用してきた低線量X線とは、通常のレントゲンに比べて線量を100~120分の1に落としたものです。
ここでは、モアレ検査でみつかった異常が単なるバランスの悪さなのか、典型的な側わんが始まっているのか、始まっているとすればその角度が正常範囲の10度以下かそれ以上かをみます。

この検診システムは、安定した成果をあげて今日に至っていますが、その意義は大きく2つに分けられます。

そのひとつは1985年頃までの成果です。検診が始められるまでは、発見されずに残ってしまった側わん症のこどもが各学年にいます。
小学5年、中学1年の2回の検診でこどもたちをみていくと、図のように検診開始当初の発見率が高くなっているのはそのためです。
また、検診が充実していない地域からの受診者数の増加に伴い、発見率が安定するまでに約8年間を要したことになります。

もうひとつは、その後、新規発見率がほぼ一定となり、現在に至っている期間です。
多少の変動はあるものの、発見率がほぼ一定だということは、これが側わん症の自然発生率を意味するものであり、検診がその発見に確実な成果を挙げていることを示しています。

このように側わん症検診は、検診活動が長い着実な歩みの中で、その成果をはっきりと現すということを示す典型といえるでしょう。

※小・中学校の年度別受診者数と15度以上の側わん症の発見率の推移
(昭和53年度~平成9年度、東京都予防医学協会)

より効率的でこどもたちのためになる検診をめざして

こうした歴史を受け継いで次の目標となるのが、精度を維持した検診システムの効率化であり、こどもたちとその保護者の方々の立場に立った検診システムの再構築です。

最近の検診では、きわめてまれに側わん度が30度以上のこどもが発見されることはあるものの、20度以上の側わん症の発見率は小学校で毎年0.1%程度、中学生でも0.25~0.41%とほぼ一定です。この数字は、検診が目指した「早期発見」という当初の目的は、十分に達したことを表しています。

そこで、従来の「1次・モアレ撮影、2次・低線量X線撮影、3次・直接X線撮影」という3段階の検診システムから、「1次・モアレ撮影、2次・直接X線撮影+専門医の診察」という2段階の検診システムへと変更して、効率化を図る検討が始められました。

※脊柱側わん症の新システム

こうした変更の背景には、現在使用している低線量X線撮影装置が老朽化し、再生産の見込みがないこと、また、医療におけるインフォームド・コンセントの重要性が強調され、検診結果の報告も紙面による通知のみでは不十分と思われるためです。やはり、2次に専門医の診察を加えることによって、「異常」と判定された児童生徒とその保護者の方々に、納得のいく説明をする必要があると思われます。

周囲のサポートも大切です

脊柱側わん症は原因療法が可能になりつつあるものもあります。
しかし、原因のわからない特発性脊柱側わん症でも進行をきちんとチェックしていくことが重要です。
そのため、いずれの場合でも早期発見・早期治療の大切さは変わっていません。実際、検診システムが確立されてからはひどくなって外来にくる方もほとんどなくなりましたし、これは検診の成果と言えるでしょう。

※モアレとX線写真

こどものからだや姿勢をよく見ているのはやはり家族ですが、家庭で「どうも姿勢がおかしい」と気づいてもなかなか病院へ行くきっかけはつかめないようです。学校で側わん症の話を聞き、検診で異常を指摘されて受診するこどもたちが多いことからも学校の役割は大きく、特に養護教諭、学級担任、体育教諭、校医の連携による部分は大きいのです。

脊柱側わん症は、からだだけでなく心も、おとなに向けて発達していく最終段階にあたる思春期に多く現れます。
その時期に脊柱の変形を指摘されることや、場合によっては装具をつけて治療をすることは、そのこどもにとって精神的にも大きな負担となる可能性があります。そのためにも、私たち検診を担う側は、側わん症と診断されたこどもやその保護者の方々の疑問や不安を解消し、将来にわたり、側わん症にきちんと対処しうるようアドバイスしていくことも大切だと考えています。

それと同時に、学校関係者だけでなく、側わん症のこどもをとりまく周囲の皆さんに、脊柱側わん症について知っていただき、サポートをしていただくことが必要だと思っています。

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